海外大学院出願ー虎の巻
昨今、海外大学院を経た大先輩諸氏のおかげで、誰でも気軽に留学について触れられるようになった。
また、空港に行けば、まるで泉岳寺行き快速電車1のようにドバイ経由ベルリン、ミュンヘン経由ロンドン行きのフライト情報が飛び込んでくる。
昔のように貨物船から母国にモールス信号を送ったり、ちょんまげ姿でえいやおうおうと大航海に出なくてもいい時代だ。後ろの乗客が嫌だというまでリクライニングシートを傾け、ごろつきのある氷でキンキンに冷えたコーラを何度が注文すれば、そこはもう地球の裏側なのだ。たまにハリーポッターとか鑑賞し、チキンプリーズとかいいながら。
身近になった海外留学のクセに、ぐうたらでユーチューブを見ることぐらいしか芸の無い私は、それでも地球の裏側につくまでに多くの時間と費用を費やしてしまった。
その道のりから対価を得たのか、答えはおそらくNOだ。パワプロのイチローみたいなABAAAのようなチート選手をサクセスで作っても、お母さんが褒めてもらえないと同じだ。試合対戦で育成選手を使って弟にキレられ、ケンカになるのが落ちだ。
一方で、そんな選手の育成法、いわば自作の攻略方法に興味を持ってくれる人がクラスに一人か二人はたまにいた。そこには自分が先生なんてよばれるような高揚感があった。だからこのページではそんな高揚感を得るべく、大学院出願における自家製の攻略本なるものを御披露目したい
1. アメリカ大学院
留学・ビジネスの王道である、MBA留学も含め、多くの人を魅了してやまないアメリカンドリーム・アメリカ。その名声に恥じず、大学院においても世界ランキング・学費ともに群を抜いてトップである。
私が出願した大学と対戦結果は以下の通り。
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クラーク大学/Environmental Science and Policy ⇒合格
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コーネル大学/Public Administration and Public Policy ⇒補欠合格⇒合格辞退者が少数の為、不合格
2.カナダ大学院
メープルシロップとアトランタホークスの国カナダ2。
カナダといえばJust For Laugh(カナダのドッキリ番組)。マイルドなドッキリをあてられたカナダのみなさんは、時に腹を立て、時に困惑し、さまざまな反応を見せてくれる。ネタばらしされると、みんな一様に笑顔を振りまいてOh my god~~な顔を振りまいてくれる。
Just for laughを見るたびにカナダの人ってなんて温かいんだろう!と思っていた。心優しいカナダでは学費も良心的だ。
出願大学と結果は以下の通り。
- メモリアル大学/Environmental Policy ⇒奨学金付き合格
こちらの大学院進学はおあずけと結局、なってしまった。スタッフの方は親身になって出願の相談に対応してくれた。空港でのお出迎え、カヌーツアーやクラスTシャツ配布もあるよ!といったほっこりするメールがたくさん届いた。心温まる対応をしてくださったスタッフにはいつもありがとうを伝えたいと思っている。
3.ドイツ大学院
このブログ作者ドイツ語も話せるの??と思ったあなた、心配御無用。私は全くドイツ語が話せない。知っているドイツ語といえば本当にHalloくらいなのだ。
英語が母国語ではないヨーロッパ諸国でも英語での修士課程がある。ドイツもまた然り。入学後にドイツ語学習をする学生も多くいるのである。海に入ってから泳ぎ方を学ぶように少々荒治療ではある。でも世の中にはそういうガテン系もいるにはいるのだ。以下のコースは全てガテン系修士課程である。
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キール大学/Environmental Management ⇒合格
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キール大学/Sustainability, Society and the Environment ⇒合格
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ミュンヘン工科大学/Sustainable Resource Management ⇒1次試験合格後、辞退
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ミュンヘン工科大学/Master Life Science Economics and Policy ⇒合格
これまで紹介した各大学院の必要書類は以下の通り。
アメリカ大学院 | カナダ大学院 | ドイツ大学院 | |
---|---|---|---|
TOEFL | ○ | ○ | ○ |
GRE | ○ | × | × |
志望動機書 | ○ | ○ | ○ |
推薦状 | ○ | ○ | ○ |
履歴書 | ○ | ○ | ○ |
雇用証明書 | × | × | ○ |
成績証明書 | ○ | ○ | ○ |
日本の大学院と大きく異なるのは、欧米大学院には入試なるものが主に存在しない。上記の書類を出して終わりの場合もあれば、大学によってインタビューによる二次試験がある(その多くはスカイプ等を通して行われる)。その為、どの書類やスコアを提出するのかが大学院出願の肝となる。各書類ごとにそれでは見てみよう。
TOEFL
受験費用230ドル。I love youをI rob you と誤解された英語嫌いの私は大いにここで苦戦した。何を述べているのか自分でもわからない奇声をパソコンに向かって発する苦行は、思い出すだけでも寒気がする。費やした費用は言わずもがな計り知れない。
必要となるスコアは名門(世界大学ランキング100位内を名門とするならば)言われる大学院ではTOEFL100以上が多い。
よってスコアが100ちょっとあれば選択肢が格段に広がる。名前を耳にしただけで、胸のみぞおちあたりがキュっと苦しくなるような、凄腕大学院ばかりが手の中にひらひらと舞い込んでくる。
一方、上位大学の中には必要スコアが80だったり、ランキング外でも100以上だったりするため、杓子定規には図れない。
大学によってはスコアがやや足りずともメールを送ればWEB上で公開されているものよりも低い点数で受け入れてくれるところもある。(学科内でスコア規定が異なるため。)
数点稼ぐために数万かけるよりは1通の無料GMAILをちょろっと送るのも手である。Google御代様々だ。
最低ラインが80の場合、他の志願者との差をつけるためにもっと高得点を目指した方が良いのか?その答えは果たして投じる費用に対して相応の対価が得られるかということに尽きる。スコアが上であるほど得になることはあっても損になることは確かにない。
しかし、最低ラインを大学が公表している限りそれ以上の差はどんぐりの背比べかもしれない。数万円かけてそこに投資するのか。それともボーダーがなく、伸びしろのある他の部門に力を入れるのか。答えは明らかであろう。
GRE
先ほど欧米大学院は書類のみと述べたが、GREを北米版大学院向けセンター試験と名付けても良いだろう。TOEFLと違い試験日が多い一方、受験回数が限られている。私はお茶の水の会場で受験した。ビルもトイレも大変綺麗で、とても気持ち良く快便させて頂いたのを覚えている。
時間の都合上、一度しか受けることが出来なかったが、数学は日本の高等教育を通過しているであれば相当な量を解くことが出来るだろう。
一方、ライティング及びボキャブラリー部門は難題であり、かける時間・コストに見合う結果を得られたとは言い難かった。
以上、数字によって判断されるのがGREとTOEFLだ。
そこには貴方がいかに英語に触れ、そのダイナミズムを知り、いかにして大学院留学を目指しパソコン上に向かってI live in Tokyoと話しかけているのか。そのプロセスも汗も涙も数字の中には表れない。
数字高いモン勝ちの世界だ。他方、後述する推薦状や志望動機書は数字の世界を離れ、ロマンの世界へと入り込む。
いわばGPAやTOEFLではうだつの上がらなかった私やどこぞにいるやもしれない貴方でも差をつけることのできる。苦労のしどころがいのあるところである。
推薦状
大学院進学にあたり、貴方がかくかく、しかじかの点で優れ、大学や社会に寄与すること。また、くかくか、かしかじの御利益を与えることが出来るという太鼓判である。
推薦人には信頼に足る人物が好ましい。信頼に足るとは
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あなたを良く知りえているか
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希望先大学院に精通しているか
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あなたの研究分野・学会に精通しているか
がポイントとなる。より多くの点を満たしているに越したことは無い。
しかし、大学院での研究に事前に備え、大学在学中に特定の教授に狙いを付けている事が常ではない。故に、頼むべき相手に見当がつかないときもあるだろう。
その場合、1~3を無理に満たそうとはしない。まず、あなたのことを良くも悪くも知りえている方と相談することが肝要だ。
一から研究内容・性格を理解して頂き、場合によっては推薦状のドラフトなるものを書き上げて共に推敲してくれるかもしれない。
推薦状の一般的なストリーリーラインは以下の通りである。
私が○○さんを推薦することを光栄に思うこと(I am pleasured to recommend ○○~)、本人と推薦人との関係(論文担当、同部署の上司など)、どの程度、本人を知りえているのかを強調する。
同氏に対する推薦人からの評価、授業/プロジェクトに対する姿勢、情熱、能力、与えたインパクト/成果。
個人的エピソードなど。
同氏が進学希望とする大学院にいかに適しているのか、どのような利益を大学や社会全体に与えうるのか。
推薦人からの最後の一押し(I am confident that he is qualified to successfully~)。
あなたはそんなに自分をヨイショしたものを教授や上司に求め、その上、署名までもらうとは、なんて厚顔無恥なんだと思うかもしれない。
しかし、就活然り、ビジネス然り、卒業以来顔を合わせる同窓会での旧友然り、なににしたって自分をヨイショしておいて損はないのだ。
志望動機書(Personal Statement)
推薦状と同じく、こちらもヨイショのしがいがあるところだ。
よく、「どやってるね」といわれる私が、自分をヨイショするためにすること、それは「研究計画書を組み込め」である。
大学院が応募者に期待していることは何であろう。
ミス・ミスターキャンパスに選ばれたことだろうか。途上国で学校を建てたことだろうか。企業からいただいた資金で世界一周することであろうか。
どれも素晴らしいことだ。どれか一つやれ、と言われても、私は途方に暮れ、Youtubeに明け暮れ、薄明りの朝方にカップヌードルをすすり、煙草を吸うのが精いっぱいだろう。
しかし、大学院が応募者から欲しいものはそんな挫折ではない。
一定の研究成果を期待することができ、研究、学問、社会全体にどの程度貢献しうるのかという事である。
となれば、一度、自身の研究における現状・問題意識・先行研究・仮説・研究目的を推敲し、二年間の研究実施計画なるものを作ることが一見遠回りのようでいて、一番の近道である。
なぜなら、研究計画書を型として、あとは各コース毎に科目構成・内容・教授陣を精査し、肉付けすることで各コースにあわせた志望動機書を作成できるからだ。
将来の目標/希望修士コースへの情熱
=>研究目的どうして本研究/本大学院を希望するのか
⇒現状・問題意識大学院にて学びたいこと~履修したいクラスや注目プログラム~
⇒二年間の計画実施カレンダーの一年目にあたる
⇒先行研究を踏まえた研究計画
大学院にて学びたいこと~修士論文テーマや注目した研究者~
⇒二年間の計画実施カレンダーの二年目にあたる
⇒先行研究を踏まえた研究計画
本大学院を通じどのような人材としてどのように社会に寄与するのか
⇒現状・問題意識・研究目的を踏まえての展開
例として以上のような研究計画書を軸にストリーラインを展開できる。
あとは型から離れ、幼少期の体験、研究のきっかけとなった人との出会いや、実務経験を通じた課題など、個々に必須と感じるものを肉付けしていくと貴方だけの志望動機書が出来上がるだろう。
雇用証明書
雇用証明書も同様である。主に履歴書にて記入したフルタイム、インターンシップ、ボランティア活動など記入したものは全てその活動を証明する書類が必要となる。これはドイツでのPraktikumやWerkstudentなどに該当する。例えばインターンシップ修了時などにおいて、ドイツでは担当上司より評価書なるものが与えられる。在学中に評価書を躍起になって集める学生も多い。
日本にはないですね。じゃあどうするのか、一から作るわけである。作成にあたっては下記を参考にすると良いだろう。
- 発行機関のレターヘッド
- 勤務期間
- 業務内容
- 署名/印、
念のため大学ごとに必要項目を確認することも欠かせない。
<補足:各書類を推敲するにあたってのポイント>
一つ目は推敲は日英両言語で作成すること。
日本語に独特の文体、言い回し、読者に理解しやすい文章校正があるように英語にもそのような言語構成が存在する。日本語を母語とするのであれば、一度日本語を通した方が良いだろう。第一稿は英語でも構わない。しかしどれだけ英語に自信がある方でもやはりネイティブに比べて文章展開がおかしかったり、日本語に直してみるとどうもちぐはぐした文章になっている事に気が付くであろう。そういった部分はやはり英語ネイティブからみてもちぐはぐなものだ。
それらを一度そぎ落とし、意味の通る日本語に書き換え、英語に直していく。すると日本語では割愛しても理解できたワードがどうも英語では伝わってこない。そういったバランスを日英繰り返していくと自分の伝えたいことが綺麗に文章に入り込み、かつ理路整然とした英語のステイトメントが出来上がる。
このプロセスは翻訳に似たところがあるのかもしれない。そういった疑似翻訳体験をしながら自分の今後の道しるべなるものを作るのも一つの醍醐味なのだ。
二つ目は限りなく多くの人の目に触れてもらうこと。
どんなに推敲を重ねた文章でも、このブログのようにどこか自己僭越に終わっていたり、蛇足が加わっている時がある。そういったときにはやはり他の人から色眼鏡なしで忌憚ない意見を言ってもらうことが一番手っ取り早い。私の場合は
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近しい友人・家族
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同じ研究分野/留学先に精通する人(勤務先の先輩・教授・卒業生など)
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英語母語話者
の方々に、これで良しと思った原稿を、複数人同時にお願いした。彼らの意見をもとに再度、推敲し、出願締め切り10日くらい前に信頼できるネイティブスピーカーに最後の英語の確認をしてもらった。また最近では出願書向けのオンラインサービスも割とお手頃な値段であるので、そちらもお勧めしたい。(http://www.editmyenglish.com/)
以上、かなり駆け足で大学院出願の攻略点を書いてみた。ここまで来てやはり感じるのは、大学院プロセスというのは、どれだけ美味しくあなたの料理を出願先の方々に食べてもらうかである。
どんな前菜(TOEFL/GRE)を用意し、メインディッシュ(志望動機書)は何を食べてもらい、食後のテザート(推薦状)で気持ち良くなって帰ってもらうのか。
そこにはレストランの空間(成績証明書/雇用証明書)も大事になってくる。顧客によって好みの食べ物も、何度も通いたいと思う空間も違うのだ。故に正解といえるようなものもなく、ゴールの見えないもので、時に嫌気がさすものだ。
私も何度も辞めてしまおうかと考えたし、そのたびに同じような道を通り、道筋を与えてくれたのは他でもないブログの数々と卒業生の方であった。この記事もささやかではあるがそんなプロセスに乗り込んだ人の一助に少しでもなれば幸いである。